2020年4月 1日 (水)

晶子新作 2020年4月

川瀬晶子新作二十句 「かもめ舎」第45号より

 

 「アンドロイドA61」

               川瀬晶子

 

プロローグなのかもしれぬ震災忌
咆哮の見えないものに侵される
警報音慣れて鴉のふてぶてし
セシウムをミモザの色に染めたなら
捨てちゃえば海は広いし大きいし
日の丸やゴリンゴリンの狂詩曲(ラプソディー)
君称う逆回転の読経のごと
着ぐるみの草臥れ果てた毛並みかな
千秋万歳しっぽもピンと挙げるべし
花便り天動説は揺るがない
死んでいる愛想ばかり良くなって
ヒロインと煽てて落とすブレーカー
ヒーローは不在 梯子を外される
葛引の濁りの中でもがく蟻
雛飾る残り時間をセットする
証とて砂漠に挿した棒っきれ
お父さんごめん もう手を離しそう
A61脱げば金平糖ぽろり
大丈夫かと問われ花の降り止まぬ
人間が消えても夕日美しい

2020年1月 2日 (木)

川瀬晶子新作二十句 2020年1月

川瀬晶子新作二十句  「かもめ舎」第44号より

 

  「数え歌 Ⅱ」

一つとせ一人びとりの初日待つ
  瞳の中の海の暗さよ
二つとせ二日続きの堕ちる夢
  大好きだった赤い風船
三つとせ三叉路に立つ道祖神
  二人戻って一人戻らず
四つとせ四角く切って空たたむ
  時々舐める水色の飴
五つとせ五感を閉じて浮く暫し
  宙を身籠もり唯我独尊

六つとせ六方踏んでをとこ逃げ
  没してからの燃ゆる山際
七つとせ七草粥の青臭し
  女うるさい男めんどう
八つとせ八つ当たりして腹の減る
  動かぬ石の長い溜息
九つとせ九九を唱えて眠らない
  砂漠のヘビの美しすぎて
十とせ十日戎のつんのめり
  わたしわたしと満ちる海原

2019年10月 1日 (火)

晶子新作 2019年10月

川瀬晶子新作二十句   (かもめ舎第43号より)

 「秋雷」

宵祭わかれた人の訃の届く

真夜中の動悸 止まらぬ風ぐるま

願い事叶ってしまう目眩する

君が居た人差し指の傷の痕

石抱いて祭の渦に紛れ込む

オルゴール閉じる 泣くこと許されぬ

ダイナモか祭囃子か耳鳴りか

借りもののココロだんだんずれてゆく

十年後私に落ちてきたボール

雷一閃 はい私が殺(や)りました

私から風袋引けばテントムシ

煽てられ馴染んでしまう他人の靴

違和感のコップの水の溢れをり

肩甲骨むずむず飛び降りそうになる

死に体のひらりと蝶の横切れり

罪人の如くに山車の綱握る

死んだ者の勝ち 夕日の真っ赤っ赤

西側の窓から山ひとつ消える

無月にてぼんやり白き曼珠沙華

一刷けの雲を残して祭あと

 

2019年4月 5日 (金)

晶子新作二十句 2019年4月

晶子新作二十句 「かもめ舎」41号より

 

 「A60」

目を開く毎朝違う曇り空

震災忌 黒い袋を積み上げて

スイッチは八年前に切られている

誤作動の果ての荒野の砂埃

乱暴に均され日常を覆う

2020もうTOKYOも終わりだな

平成の大乱 千年後の遺跡

青空の向こうは漆黒の闇夜

舫い綱切ればあなたは生きられる

喪失感 背中の瘤になってゆく

 

氷上の惰性のままに異次元へ

囚われて赤いベレーに赤いシャツ

わたしが漏れてゆくぽたりまたぽたり

友に微笑む時ぐにゃり何か踏む

泣く笑う風に意味などありません

虹なんて薄情 月ほどではないが

人型に塗り残されている昨日

数ピース足りぬパズルを生きている

もう駄目と呟くたびに海光る

ダウングレードA60の再起動

2019年1月 1日 (火)

2019年1月 晶子新作二十句

2019年1月 晶子新作二十句
         
           「かもめ舎」第40号より


  「けものみち」
               川瀬晶子

(しし)止まる見知らぬ街の交差点
此の世とやガラスに映る獣面
鬱と書くバカバカしくて笑っちゃう
白い箱ネズミ太ってゆくばかり
何を言えるだろう老いた牛の目に
放たれる手負いの虎のいる谷間
我が肉(しし)を抉る 私は長女
骨肉の大きな葛籠(つづら)横抱きに
母を追い兎の穴へ落ちてゆく
ちちんぷいタツツキトコヒンマゲサン
赤きもの確(しか)と目覚める昼の雷
ヤマカガシ母と私の真ん中に
この手から零れゆくもの愛と呼ぶ
父だろう丘に佇む裸馬
泣けたのに せめて海でも見えたなら
生け贄の羊のにおい身に纏う
猿山の喧騒止まず閉じる蓋
雁一羽渡りそこねてしまったか
還暦なんてこんなもんかい犬の糞
飛六方 情け無用のけものみち

2018年10月 1日 (月)

2018年10月 晶子新作二十句

2018年10月 晶子新作二十句
         
           「かもめ舎」第39号より


   「アンドロイドは夢を見る」

               川瀬晶子


八ミリに映る家族という記憶
何度も転び何度も笑う聖少女
御仏の囁く息の生臭し
ぬめぬめはそろりそろりと腕を這う
掴まれた感触消えぬ首の痣
すすり泣く巨人 見上げるアブラムシ
ゆっくりと傾く声も失って
道草も驟雨もプログラム通り
手を振って笑う友達らしき人
繰り返す尿意 夢から覚める夢
改札で提示 人間証明書
時々目の光る捨てられたアイボ
果てしなき宙(そら)よ扉のない部屋の
不確かな境界線に置くリンゴ
草原に大樹 あなたは神ですか
ホワイトアウト永遠という刑のあり
ブラックアウトたった一つのスイッチで
あと五秒空が私に落ちてくる
石化する唇やっと逢えたのに
幸せよ星の孤独に比べれば

2018年7月 1日 (日)

2018年7月 晶子新作二十句

2018年7月 晶子新作二十句
         
           「かもめ舎」第38号より


                                           
   「夏二十句」


逃げ水のふわり優しき人攫い
寅さんもろくろっ首もない夜店
ベランダの手花火 秘密求めらる
青い舌見せ合い友になる儀式
栗の花ああ女って女って
見ていたわヌッと顔出すカンナかな
同情の打ち水の跡まだらなり
扇風機カタカタ男って哀し
雷一閃見たくなかった右の貌
夕立に追い立てられて君帰す
戸袋の守宮見ぬふり聞かぬふり
素に戻る西瓜の種を吐き捨てて
日向水やっぱり許せないゴメン
絵日記の少女のリボン褪せてゆく
叱られて蚊帳のにおいを思い出す
鳳仙花こぼれる母を受け止める
麻幹焚く父の庭下駄突っかけて
放たれる御魂 八月の青へ
ビル群は塔婆の如く敗戦忌
蜩や父をなくしてからの空

2018年4月 1日 (日)

2018年4月 晶子新作二十句

2018年4月 晶子新作二十句 (「かもめ舎」第37号より)


     「A59」


                    川瀬晶子

   福島産 終わったことになっている

   毛穴まで映しテレビジョンの末期

   夜ノ森の桜中継 父は哭く

   結界を冒す花咲かじじいかな

   満開の宴の下の犬ふぐり

   街の灯の一つ一つにある命

   大夜景時限装置は点滅す

   暗闇へ投げたナイフの軽き音

   蟻の列 遠くで扉また閉まる

   根を切って緩慢な死へコロコロと


   一匹の虫一輪の花震災忌

   私の七年 嗤う人のあり

   人拒む路地の壊れたネオン管

   紙雛の泣くでも笑うでもなくて

   白菊のだんまりワタシ変かしら

   大笑の後のしじまのあやうさよ

   本心は畳み花野へ消えてゆく

   他人事のように眉描き紅をさす

   怒らねばもっと食べねば笑わねば

   逆上がり明日を生きるおまじない

2018年1月 4日 (木)

2018年1月 晶子新作二十句

2018年1月 晶子新作二十句
 
    「別れ」

群衆の中の二人でいる甘美
雪月花すべて私のためだけに
恋の瀬のここより勝負艪を流す
満月や私の月と君の月
小賢しく照らし男を駄目にする
身代りと知りつつ猫は抱かれをり
妻からの電話あなたのポケットで
かはたれの小心者の背中かな
友の法(のり)麗し蝿も殺さない
激情のタンゴ見事にスッ転ぶ

写真焼く顔を見られて昼の闇
濃紫泣かぬ女は疎まれる
暴かれて火玉呑み込む藪椿
バカバカバカ逃がした亀がまた戻る
本当に欲しいか銀座原宿六本木
曲を替え男を箱に戻します
電柱や妻でも女でもなくて
コート脱ぐ憑きものすっと落ちてゆく
淡くなる乳房おまえはもう自由
君を見る遠くの丘を見るように

2017年10月18日 (水)

2017年10月 晶子新作二十句

2017年10月 晶子新作二十句

――「かもめ舎」第35号より

 

「余白」

 

  捨てたメモかさりと夜の長さかな

  欄外にはみ出す本気萩撓む

  もう来ない気もする十二番乗り場

  握り潰してる西口午後三時

  引き波の君の祭りは終わったか

  波は消す女に戻るパスワード

  三度目のエラー どうでもよくなった

  迷いなど気にしないゴミ収集車

  ふわふわを抑え込んでるガムテープ

  耳鳴りの止まず鬼灯また破る

  

  じんわりと広がる余白 鳶の鳴く

  サイコロ転がって今日は何曜日

  雲梯の途中で予鈴鳴り始め

  無味無臭風力ゼロにぶら下がる

  木犀や重心ずれる二三日

  秋思かなサイレン通り過ぎてゆく

  お導きなれど砂漠の停留所

  終わらない白に蝕まれる道化

  人形の赤い唇答えなさい

  案山子傾いて広くなる美空

 

2020年4月
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